一ヶ月程前のこと。親しい思いを抱く先輩牧師の庭の樹に、温度計が縛り付けられているのが目に入った。
その時は何気なく眺めていたのだけれど、今考えて見ると、それって稚内でも必要なものなのかも知れない。
わたしが外の気温を知るために使っているのは、7年落ちのわが家の愛車に付いている外気温計だ。
かつて、新潟の豪雪地帯に暮らしていた頃は、さして、外気温を気にすることはなかった。大雪は降るけれど、外気がマイナスになるようなことは稀だった。
けれども、この宗谷近郊ではそうもいかない。特に、路面の凍結状態を把握するには、外気温計の表示はそれなりに重要な情報だと思う。
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今度はちょうど一年前の話。
北の枝幸(えさし)から内陸へ10数㎞の町・歌登での家庭集会からの帰り道、夕方6時頃のこと。ふだんは通らない宗谷岬を通って稚内に戻ろうとしていた。
前日までの強い雪は既にやんでいた。吹きつける雪は猿払のアップダウンの続く道では多少あったけれど、路面には殆ど雪はなかった。
あと30分もすれば牧師館に着くなぁとほっとして宗谷岬の先端を通り過ぎていたその時、ハンドルが全く効かず、車体が反対車線に滑り始めていた。スピードはたぶん法定速度程度のはず。
ハンドルをクルクルと回し、逆ハンを切ったりするのも空しく、車体後方を海沿いのガードレールに「バーン」と思いっきりぶつかった。そのまましばらく惰性で走り、ようやく態勢を整えて元の左車線に帰ってきた時、反対車線からやって来る車のヘッドライトが幾つか続いているのに気づいた。
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数百メートル走ってから左端に車を寄せて停車。
自走出来なくなるような大破ではなかったけれど、時間の経過とともに、大型トラックやバスが来ていたら・・・と考えるとぞっとしたことを想い起こす。
タイヤは冬用のスタッドレスに変えていたけれど、ミラーバーンやブラックアイスバーンと言われる所にうかつに乗り上げると、名人でもほぼアウトらしいことを後で知った。
地元育ちの青年に依れば、「牧師先生。あそこは、歩道に限りなく近いところを用心しながら制限速度以下で走らないとヤバいっすよ」と言う。
そう言えば、その日の朝、反対方向の道には、真っ逆さまになって放り出されている乗用車が宗谷の町の近くのカーブに乗り捨てられていた。
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あれから一年。再び冬である。
あの日、助手席に同乗していた妻は、その半年後の今年の4月初めに左手首を骨折し手術となった。数ヶ月ぶりに聞こえて来たお豆腐屋さんの笛の音を耳にして走って外に出てしまい、最後の地吹雪後の自宅前の圧雪路で転倒したのだった。
以来、冬に対する恐怖心がぬけなくなっているが冬は容赦なくそこまで来ている。骨折の回復も思ったようには進まず、きょうは骨折部分を繋いでいたチタンプレートを抜く手術となった。
抜かなくても何ともない方も多いらしいが、妻はそうはいかず、腫れが引かず、痛みも寒さとともに増してきていたので、何とか、この度の手術で快方に向かうことを願うばかりだ。
女性の細い腕に、きょう枕元で見せてもらったあの金属プレートと何本ものビス(写真がそれです)が埋め込まれていたのを知った。
こりゃぁ具合も悪くなるなぁ、というのが本音である。
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それにしても、この地での暮らしの厳しさが身に染みた一年で、妻にとってはトラウマとなる恐ろしい体験が重なったことになったのだと思う。
吹雪や危険な凍結路を無理して買い物に出なくてもいいようにと(運転は以前からわたし)、この冬からは、地元生協による「トドック」という宅配による買い物を利用することになった。
よくよく気をつけて耳を大きくして聞いていると、ご近所の方たちや教会の方たちも、思いの外多くの方が、この生協による宅配を利用している様子。
長年この地に暮らしている方たちは、皆さん、わざわざ危険な道の中を走らないで過ごして居られたのだなぁ、と遅ればせながら気づいた。
よろしくお頼み申します。トドックさま。
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さあて、今年はどんな冬になるのだろう。
平均すれば、結局は毎年同じくらいの雪は必ず降るのだよ、という話を聞いたことがある。
そうかも知れない。
いや、実際は、雪の量には差があるのかも知れないけれど、実は、降った雪を凍らせる寒さそのものには、毎年さほど差がないのではなかろうか、と思う。
これからの4ヶ月、除雪も含めて、うまく折り合いを付けながら過ごしたいと思う。力まず、たたかわず、同調する感じかしら。上向きな心で春を迎えたいものだ。
今から春なんて・・・、と思うあなた。あなたはきっと道外の方なのです。end