「寒いなぁ。ストーブつけようよ」
そう言っては、しばらくするとスイッチを切り、また入れる。そんな日が続いた。
このお便りを最初に書き始めたのは5月19日(月)のことで、その日もう雪はないだろうと思っていたら、牧師館から5分ほどの所を散歩で通りかかったところ、陽がほとんど射さない土地に残雪を発見。
増補版として手を煎れている26日(月)、名寄からの出張の帰り道にも、山辺には多くの雪が見えた。
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この季節、稚内は明らかに、札幌や旭川辺りとは気温が違う。
寒いのだ。
今年は北部は冷夏の長期予報が聞こえるが、九州育ちのわたしには、春だなぁという感が今も乏しい。
道内に赴任して10数年を経た岩手出身の同労者が、札幌近郊に赴任してから数年の頃に、「あ、これって冷房病?」と気づいたことがあったそうだ。
なるほど、そうかも知れないな、と思う。
新潟県上越市の教会に仕えていた頃、空の低さというか雲の低さに重苦しさを感じ、軽井沢を抜け、埼玉方面に出張するときに、空の高さがあまりに違うことに驚いていたことを思い出す。
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さかのぼっての話で恐縮だが、4月のおわり、北海教区総会の開催に合わせて札幌に出かけた。
前日から札幌に入り、医療関係の用を済ませ、ちょっとした買い物を終えた頃には、楽しみにしていた札幌駅前の百貨店・大丸内のうなぎ屋さんまで出向く元気もすっかり萎んでしまった。
それなら、ボリュームのある中華にしようと思って入店しカウンターに座った。
餃子の王将だ。
6時頃のことだったが、しばらくすると、一人の青年をはさんで右隣りに、なにやら特徴ある髪形が目に入った。そう、見間違えようがない。数日前に稚内に所用で来てくれた牧師仲間だった。
「おう、何だぁ。札幌も狭いなぁ」と挨拶。
食事を終えた時間。それぞれの宿に向かうのに少し早すぎたので、「これからどうするの?」と念のために聞いてみた。
すると、にこにこ笑顔で、「7時に開店する良いお店があるんです」との言葉。
「だったら、僕もついて行ってもいい?」には満面の笑顔で応答があった。
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それから約2時間、そう遠くない所にある、プロフェッショナルな日本酒専門のバーに連れて行ってもらった。
顔を合わせた相手も、わたしがお酒を飲まない(30年前にある肝臓病が切っ掛けでやめたのです)ことは知っているのだが、いっこうに構わず、日本酒専門のバーへと案内してくれた。
開店して間もないお店には、最初、他にはお客さんはいない。
そこでの時間。ひとことで言えば楽しかった。
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カウンター越しの棚に並べられている日本酒は、普通のスーパーや酒屋さんではぜったいに見つからないものばかりを揃えているとのこと。
とくべつな問屋さんがあるのだろうか。日本各地の地酒。見たことも聞いたこともないような、選りすぐりのものしか並んでいない。
わたしはと言えば、その日案内してくれた方の故郷の飲み物でもある、ポンジュースという、愛媛県産のオレンジジュースを頂きながら過した。
カウンター越しのママさんなる方とお話しするのは何年ぶりだろうか。カラオケがあるわけでもないそのお店は、お酒を味わい、会話を楽しむのに最適。
そんな、実に大人の空間だった。
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しばし会話を楽しみながら過ごしていると、やがて、一人でふらーっと入って来た30歳位の男性のお客様。
続いては、二人組の40歳前後の女性キャリアウーマン風の方たちが来店。
思い思いの酒瓶を指さしては「きょうはどうしますかぁ」「じゃ、最初は○○○」とオーダー。冷やのまま一升瓶から注がれる日本酒の音が心地よく聞こえる。
どうも、冷蔵庫にしまわれている酒瓶は冷やで味わうものらしい。それ以外は、お燗向きということのようだ。
あー、みんな一生懸命お仕事して、息を抜いて、しばし、ホッとしに来たのだなぁ、等と思いながら身を置いていた。
日夜戦い続けている企業戦士たちの様子も含め、たまにはこうした空気に触れることも必要だな、と思った。
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ママさんと友人の話を聞いていると、ワインの値段の高さ等に比べると、日本酒の奥深さ、ゆたかさ、値段の安さは表彰ものらしい。なるほど、そうかも知れない。
宝塚の誰かに似た所のあるママさんの心配りの仕方も興味津々だった。確かお店を始めて7年だったと思う。
おそらく、サービス業の最先端を生きている自負を抱いて居られると思う。ママさん。かつてはある一流ホテルでブライダルのお仕事に係わっていたとのこと。プロの仕事の在りように触れて、良い勉強の場となった。
それにしても明朗会計には感動。
気の利いた本当にちいさなおつまみ4点と合わせて2千円と少し。倍以上の金額を予想したので驚いた。
友は(カウンターに座って)「本でも読みながらもう少しゆっくりしてます」とのことなので、わたしは先に失礼した。
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ところで、ここ数週間の間に、私的には、たいそう気になるニュースがあった。
そのひとつが5月9日、民間有識者で検討したという「人口減少問題検討分科会」による子どもを産む中心世代である20~39歳迄の女性の人口の将来推計が、各紙に掲載されたことだった。
稚内北星学園大学の図書館に出向いて各紙を比較してみた。
道内に絞ると、2040年には147の市区町村で半減とある。それだけの数の市町村が存続の危機に直面するということ。つまり、札幌以外の道内の多くはそうした状況なのだ。
函館や旭川という、大きな都市と思っていた所までその中に含まれているとは知らなかった。
最新の稚内市の人口。
稚内市報によれば、一ヶ月で287名の減。それから世帯の数も93の減とある。春の異動時期とはいえ、一気にこんなにも多くの方が市外に転居してしまうとは。
果たして次月は少し持ち直すのだろうか。
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こうした人口減の中でのキリスト教の伸展、目に見えた伝道の成果を感じるということが、果たしてあり得るのだろうか、と思う。
このような人口減・過疎化という厳しい現実の中で、なお、神さまの真実なご支配が実感できる教会生活を、わたしたちは祈り求めたいものだ。
先の北海教区総会でも話題になったが、日本各地の小さな町、端っこに踏み止まっている教会が見捨てられてしまうのでは、と心配になるようなことが起こらないように、共生の道を何としても進んで行きたい。
それは心からの願い。
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妻の左手首の骨折。色々と考えさせらることが多い。
骨折にもさまざまあるにせよ、こんなにもダメージが大きい事態になるとは、当初、全く想像できなかった。
“骨折”を知るホームページ「骨折ネット」が世に存在して様々な情報を得られる。
妻の骨折は、単に、整形外科的な事柄や機能の回復の問題だけではなく、心理的に“ぽきんと折れる経験”をしているのだという、信頼する専門家の言葉を聴いて「やっぱり」と思った次第。
病気や怪我の苦しみというものは、当人にしか分からないことが多い。リハビリの苦しさ、不自由さ、不安。側に居て、言葉の掛けようがない。
ある友人が「順調に、悪くなっている」「骨折しなかったら、もっと大変だったから骨折したんだ」という見方もあるのだ、と教えてくれた。
なるほどと思う。
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おしまいに体重の話題。
わたし、体重をこれ以上は増やさないように、とあらためて思うこの頃だ。既に何度かこのblogでも記したことなのになぁ。やれやれ。
運動、節制、その他。
あれもこれも足らないのだろう。いや違う。反対にあれもこれも多すぎるのか。
ある年若い著名なお坊さまが、「60回噛むように心がけてご覧なさい、そうすれば…」と言われてることを知った。
確かに、感謝しつつ噛み締める食し方が本当に足らないと思う。がつがつと食べるのは、味わうということも、感謝することも、ずいぶんと不足していることを認めざるを得ない。
うーん、悔い改めが必要なのだなぁ。
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ただ思うに、がりがりに痩せてしまい、お尻の骨がとんがって、椅子に座ることが耐えられなかった、5年程前のある時期よりは、かなり健康的だろう。
本当にそう思う。
初夏が間もなく終わるとラジオで話す声が聞こえた。
が、初夏どころか、早春が足踏み状態の稚内。めげずに、元気に気持ちよく、外を歩き始めよう。end