2013年10月31日(木)№87  『 〈 ABASHRI 〉での〈 安息 〉 』

 

【 豊かなオホーツクに活気みなぎる網走 】

 

網走市の公式Webサイトにはそんな言葉が踊る。その網走に、おそーい夏休みを頂いて出掛けてきた。

 

稚内教会に赴任する少し前に北海道旅行をした時、網走も訪ねたことがあったのだが、その時の印象は、網走刑務所と網走湖だけの町という、まったくもって網走の皆さんに対して失礼な先入観、そして観光の仕方で終わってしまっていた。

 

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「ぜひ、遊びに来て。泊まってください」

 

そんな妻への言葉を真に受けて、わたしたち夫婦は網走に出掛けた。

 

Tさんというウィルタという北方少数民族の〈語り部〉との交流が切っ掛けで、ウィルタの刺繍の指導をなさっているR子さんが「泊まりにおいで」と妻に言ってくれたのだった。

 

妻はR子さんと電話やメールでのやり取りはしていたが、直接お目に掛かったことなど一切なかった。 

 

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10月27日(日)の交換講壇の礼拝を興部伝道所で守り、それから網走に向かって車を走らせているとき、わたしたち夫婦はこんなことを口にしていた。

 

「見も知らない俺たちのことを受け入れてくれるなんて、そんなことってフツウじゃあり得ないよね」「うん」と。

 

途中、道東で牧会する友に電話すると、「出会いだなぁー」とポソっと一言。

 

そうか、出会いなのだ。

 

そして、それこそ、わたしの求めている人生の旅の楽しみなのかも知れない。観光地に出掛けても、めったなことでは感動もせず、面白さも感じないわたしなのだから。

 

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わたしたち夫婦。

 

本当に不思議なことに、何の心配もなくR子さんご夫妻のお宅に向かって車を走らせた。稚内からは400数十㎞だろうか。興部を出てから既に4時間は経った。

 

幸い、カーナビにOさん宅の電話番号を入力すると、真っ暗になった網走の小高い丘の上にあるO家の前らしき場所に辿り着くことが出来た。ナビがなければ決してたどり着けない場所にお宅はあると思う。何しろ、その辺り、殆ど家は見当たらない。畑と森ばかりだ。

 

しかし、ナビが「目的地に到着しました。案内を終了します」と宣言してしまった。

 

でも、どうみても、家らしきものは見当たらない。突然不安がムクムクともりあがり,

「ねぇねぇ、R子さんに電話入れてみて。ここって、全く違うところなんじゃないか?」とわたし。

 

1分後、森の奥の方から、懐中電灯らしきものが揺れながらこちらに近づいて来た。

 

あー、ここで良かったのか。

 

だが、O家の道路端の入口には表札も看板も本当にない。うかつに車を進めると、出られなくなりそうな気配濃厚だった。 

 

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神さまは不思議なことをなさる。

 

辿り着いたO家は、知る人ぞ知る、青森県の岩木山山麓にある〈佐藤 初女(さとう はつめ)〉さんの「森のイスキア」のような家だった。わたしたちにとって。

*佐藤 初女『朝一番のおいしいにおい』女子パウロ会 1997年 他をご参照下さい。

 

御主人は昭和20年生まれの68歳(のはず)。50歳の時一大決心をして、本土でのサラリーマン生活に終止符を打ち早期定年退職。その後、網走に居を構えてから今に至っているとお話くださった。同じ土地に立っていたという、旧家の解体は少しでも費用を抑えるため、二人でせっせと手仕事で行ったとのこと。

 

決して、決してお金持ちというような方ではないのに(ご自身の幼い頃からの赤貧の苦労も明るくお聴きした)、何とゆたかな心でわれわれを受け入れて下さったことだろうか。

 

おそらく、4人の息子さんやそのご家族がお孫さんと共に帰ってこられたときと、そう大して違いのない“もてなし"というのか、向き合い方をして下さったのではなかろうか。食事にせよ、そとの温泉につれて行って下さるときのことも含めて。

 

われわれも少しも肩に力を入れることもなく、ゆーったりとした時間の中に身を置かせて頂き、おしゃべりをしては食べ、風呂に行き、笑い、時に、バッハの曲などをレコードで聴く。いやいや、Oさんのバイオリンにも耳を傾ける。

 

御主人は、おそらく、どんな偉い人がやっ来ても、態度や言葉を一切変えないタイプの方だ。素晴らしい!

 

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御主人のOさん、幼友達と共に神奈川県の川崎の教会に通っていたことや、ご長男が、ある宣教師のご家庭で中学の後半からお世話になったこともあり、聖書のことを、生半可でなく知っておられた。

 

投げかけてくる質問がおもしろい。わたしが牧師だからだろう。聴きたいと思っていたことをどんどんぶつけて来られる。

 

「聖書には“呪う"なんて言葉はないんでしょ」
「“天国"に人間だけが入るなんてのは、どうなの・・・了見が狭いのでは(愛猫のコテツちゃんの死と結び付いている模様)」

「聖書の中の〈憐れみ〉〈Kyrie〉は・・・でしょ!」
 「“みみず"は聖書に出てきたっけ」
「“バッハ"の曲が変わったのはさ、あの頃でしょ・・・」
「“ルター"が聖書を翻訳したのは・・・95箇条の提題・・・」

等々。

 

二日目の夜は、R子さんのチェロとOさんのバイオリンに合わせて、讃美歌を歌い続けた。趣味の域を超えている腕前のお二人の演奏をバックに、我ら夫婦二人が賛美し続けるという豪華な時間だった。こんなことって本当に他のどこにもないこと。

 

わたしが紹介した、『主よ、みもとにちかづかん』には、「おー、いいね、いいね」と言われたので、「これ、教会では、お葬式の時に選ばれることもあります」と伝えた。

 

すると、奥さまのR子さんは「あなたの葬式の時、うたってあげるぅでぇ」と関西のイントネーションで言われる。そう、限りなくキリスト教に親しい気持ちをもっておられるのだ。

 

なんとも贅沢というのか、まったくもって予想だにしなかった展開に、ただただびっくりだったが、本当に楽しかった。

 

このほかOさんは、10年くらい前からは、何とすべて自力で〈窯〉を造りあげ(綿密な設計図から一切)、今は、春と秋に、陶器を焼いておられる。

 

その焼き物で殆どの食器を作られているのだから、これまた驚く。お土産にというのか、食事を頂いたお茶碗ほかまで頂いてしまった。

 

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三番目の息子さんは、東京が本拠の日本でもよく知られる交響楽団のチェリストとのこと。

 

お二人は、札幌交響楽団が毎年12月のクリスマスの時期に網走で行う定期演奏会を楽しみにしているそうだ。

 

雪の降り積もった裏の山道を、演奏会が終わってから夫婦二人家路につくとき、都会では決して味わえない余韻、そして幸せがある、と教えてR子さんはポツリと語られた。

 

かつて、奈良にお住まいになっていた御一家。

 

大阪でも同じ時期に同様の演奏会を聴いていたのだが、帰り道、人々の喧噪の中を潜り抜けて家に帰り着くと、〈Philharmonie〉の美しき余韻は消え去り、疲れ果ててしまっていたそうだ。

 

だが、今の網走では、雪が降り積もった樹木の中の静かで暗い夜道を抜けて、煖炉が静かに燃える家に戻ってくるときの心の豊かさは、何ものにも変えられない、と教えて下さった。

 

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「わたしは、ここが好き」

 

R子さんもOさんも、表現は違うけどハッキリとそう言われたように思う。

 

地元の人しか知らないような300円の風呂に連れて行って下さる途中、オホーツクの漁り火や知床連山の冠雪の眺望を案内して下さったお二人。庭には鶏を飼って居られ、菜っ葉をやる姿を久しぶりに見たり、産みたての卵をおいしく頂いたりもした。

 

何とありがたいことか。人の幸せとは。ゆたかさとは。たいせつにしたいことは何なのか。あらためて考えさせられる。

 

素晴らしい人生の先輩に出会わせて頂いたものだと思う。一切は神が備えられたこと。感謝しかない。continue(またいつか、続篇を記すと思う)

 

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