「事件」(笑)が起きたのは術後1日目の朝だった。
朝食も済み、歯磨きも終わって「間もなく回診がありまーす。準備をお願いします」という看護師さんの声が聞こえた頃のこと。そうですなぁ、9時頃です。
各部屋には平日は毎朝その日の回診担当のドクターが顔を見せる、というかお尻を見に来る。患者はさっとお尻を診て頂く段取りをしなければならないので、詰め物を外したり、一定の方向からドクターは来るのでそちら側に向けて横になるというわけだ。
しかーし、わたしはその頃あいにく「便意」を感じていた。なんと、手術後の夕食もおかゆではあったが出されていたので、出るべきものは出るのかも知れない。いや、もしかするとプーかスーだけかも知れないが・・・、それは、神のみぞ知るである。
手術後最初の「お便」(看護師さん用語)って、フツウに考えても大事である。
「とにかくトイレへ行こう」。
わたしは重大な決意をもって起き上がり始めた。術後最初の起き上がりなので、機敏には動けない。
4人部屋の入口に2つの快適なトイレ空間が準備されている。特にわたしは入口付近のベッドに居たので、徒歩9歩で着座可能。元気なときであれば10秒以内で到着である。
しかし、術後ということで、個室に入るまでも時間は掛かる。さらに入室後も、病院から貸し出されている術後専用の寝巻きを脱がなければならない。それは壁のフック掛ける。
さらに、手術を受ける人は必ず準備することになっている“T字帯”を外さなければならぬ。いわゆるふんどしの簡略版ですな。
個人的には、わたしの幼い頃、祖父が“ふんどし”を愛用していて、ある時期まではごく当たり前に夏はそれで海に泳ぎに行っていた。そういう時代でした昭和40年頃の大分県の大分市大在(おおざい)の浜辺は。
T字帯にも慣れないわたしだからもたつく。さらに、手術部位のガーゼも外す。ようやくこれで“お便”の出番である。準備完了まで、どうでしょうテキパキ進んでも2分位は掛かるでしょう。わたしは3分掛かったはず。
一般論として、トイレは5分を目安に。力みはいけません。それでも出ない場合は引き上げましょう、という注意書きが記されていたりする。わたしもそれは理解できます。力みはからだに悪い。
でも、ご報告の通り、“出番”までに数分はかかるわけです。水洗を済ました頃に、ベッドに不在のわたしを確かめたのだろう。看護師さんの声がドア越しに聞こえた。
「もりさーーーん、まだかかりそうですかぁーー!。先生もういらっしゃいますよー」
わたくし思わずカチンかコチンと来ましたね。そして、断固として申しました。
「こちらには、こちらの事情があるでしょ、看護師さん!」
続く。